名医

先々週、九州に長女と二人で行って来た。目的は、心臓の治療。
長年、冠動脈瘤と闘ってきた娘だが、その冠動脈の一部に狭窄部分が見つかってから、
１０年あまり。狭窄50%、75％…と、カテーテル検査をする度に、狭くなる血管にビクビクしながら、とにかく詰まらないよう、薬を飲み続けた。そして、3月の検査結果、95％。治療対象となった。
彼女の場合、大人の動脈硬化とは違い、川崎病という赤ちゃんの頃の罹った病気の後遺症のため、狭窄とはいっても、血管の内部が石灰化するという特殊なケースになる。
そのため、どの病院でもその狭窄に対する治療ができるかというと、そうでもないよう。京都の大きな病院でも、この治療を行ったことがないそうなので、日本で最も多くこの治療を行っている二つの病院のどちらかを選ぶことになった。で、交通の便のいい九州を選んだのである。
新幹線で２時間半。朝１０時に目的の病院に入ったものの、診察室前にあふれかえる患者の数に、二人で目を丸くした。紹介状を持ってきたといえど、初診なので、時間がかかることは覚悟していた。が、今まで訪れた病院の待ち時間記録を、大幅に更新した。心電図、エコーなどひと通りの検査をしながら、診察を待ち続けた。
京都の主治医が、「遠方から来られた場合、即入院してもらって、治療します」と、九州の病院の医師が言っておられたと、私たちに伝えてくれていたが、そんなことがあるだろうかと、半信半疑だった。きっと、「今日のところは、検査と診察をして、次回の予約をとってもらって、その時に治療しましょう」と言われ、帰されると思い、とりあえず一泊だけの準備をしてきていた。
そして、夕方５時すぎ、診察室に呼ばれた。やっと。京都からの紹介状や３月にカテーテル検査した映像が入ったROMを見て、「泊まる用意してきてるの？　じゃ、今から入院してもらって、2日後に治療しましょう」と、あっさり。その後、治療の詳しい説明があり、娘は即入院した。予定通り、2日後、治療。どこでも出来ない技術が、ここにはあった。ものの30分ほどで、治療は終了した。名医は、確かにいた。
「無事に終わりましたよ。もう、病室に戻りました」の主治医の言葉に、もうびっくり。水分制限もなく、食事を軽くとって臨んだ治療だったので、驚くほど顔色もよく、元気そうな姿だった。
すぐに、モニターで、治療の一部始終を見せてもらった。きれいにはっきりと見える映像が、目の前にあった。糸のように細くなってしまった血管を、丁寧に機械で削り取っていく様子に、息を飲んだ。その直後、血が勢いよく流れる様子が映った。どこも、細くなかった。それを見て、思わず、涙がこぼれた。「すごい、すごい！　先生、流れてますね」と、もう言葉にならなかった。2.5ミリという細い血管内にできた石のようなものを、小さなドリルを使って削るなんて治療、かなりの危険が伴う。しかも、命にかかわる大事な部分。それを、見事にあっさりと取り除いてしまった。
2日後、退院。「海が見たい」という彼女の要望通り、少し観光をして帰って来た。細い体に、重い重いものを持ってずっと生きてきた彼女の表情が、少し軽やかになっているような気がした。
これからも、血管の石灰化ができないとも限らないため、引き続き通院、投薬は必要だが、とりあえずの危機は脱出！本当に本当にほんとーにうれしい